チケイ・ノイエ
札幌市郊外に広がる大規模分譲地の一角に建つ小さな住宅。ほとんどが平坦なこの分譲地にあって、この住宅の敷地南面には地面に切れ込んだ小さな水路と、両岸に整備された遊歩道があり、敷地レベルはそこから1200ミリ程度上がった場所にある。水路の向こうには整備された小高い丘を持つ公園、さらにその先に標高が1000メートルを越える手稲山を望むことができる。
はじめて敷地調査に訪れたとき、遊歩道沿いの土手に腰掛けてしばらく山を眺めてみた。向こう岸に渡って工事中の公園の築山に登って敷地を眺めたりした。あるいは地面に食い込んだ小さな川底を覗き込んだりもした。我々は、こうした周辺の地形や高低差を概念的に室内まで延長することで、敷地調査の際に僕らがとった「行為」のようなものを室内に誘発させ得るのではないかと考えた。
室内につくりだされた様々な高低差が、座面や背もたれや、時にはテーブルになったりもする。一番高い床まで登れば遠くの山並みを眺めることができたり、公園の築山と視覚的に繋がったりもするし、テラスと呼ばれる頂上広場もある。完全な個室などではなく、高低差によって緩くかたちづくられる家族それぞれの場。そんな家族と建築、建築と周辺環境との「やわらかい関係性」を具現化したかった。
撮影:酒井広司 Photo: Koji Sakai