ショウナン・ノイエ

神奈川県逗子駅の北西に広がる閑静な住宅街に建つ住宅。
「湘南」と言っても敷地は海から少し距離があり、むしろ小高い丘を背にするという環境である。
普段、札幌を拠点に設計活動を行っている僕にとってはこの丘が「常緑」の木々で覆われていることが新鮮に見えた。北海道では1年を通して葉が緑なのは松類などの針葉樹だが、神奈川では様々な種類の「緑」が夏冬問わずそこにある。その緑を意識し、この住宅と背後の丘、そして建物の前に植えられる夏椿、それぞれが互いに美しく引き立てあうよう外壁の色を緑の補色であるベンガラ色とした。
建物のフォルムは周辺の町並みに合わせた切妻型。雪がほとんど降らず、梅雨がある地域に建つ住宅であるから「切妻屋根」は最も環境に素直に答えるフォルムだと言える(雪が降る地域でも切妻屋根は最も問題が起こりにくい形状だが、札幌のような都市部では屋根から落ちた雪を敷地内に積んで置くスペース確保が困難だったり、落雪そのものが近隣住民とのトラブルのもとになったりするので「切妻」は意外と少ない)。

こうして導かれた屋根形状であるから、当然内部の天井形状にも反映させるべきで、住宅内部にはこの長手方向を貫く「ひとつ屋根」を妨げる天井までの間仕切りはない。家族が家のどこにいても互いの気配を感じられる住宅である。窓やガラススクリーンは、周辺からの視線、常緑の丘の気配などに配慮して慎重に配置されている。
湘南の恵まれた周辺環境を感じるための大きなガラスや開口部には断熱性能の高いLow-Eガラス、気密性能の高い北海道仕様の樹脂サッシュを使用し、壁や屋根に充填された断熱材とその性能を長く維持するための工法も、気象条件の厳しい北海道とほぼ同じ仕様とした。こうした基本的性能が、湘南の気候においても四季を通じて快適な室内環境を保障してくれる。

撮影:小川 重雄  Photo: Shigeo Ogawa