スポーツマン・ノイエ

札幌の郊外、手稲山麓の傾斜地に建つ住宅。敷地は角地で、南側に道路を挟んで雑木林が残る市の所有地がある。
生まれたばかりの男児がいる若い夫婦がクライアントである。夫は体育教諭で、学校外のスポーツ活動にも力を入れている。彼がまず求めたのはトレーニングスペースの確保であった。建物内において最も長く時間を過ごす重要なスペースだという。そこは将来教え子たちが出入りしたり、野球仲間が溜まり場として利用することも予想される。一方、婦人には乳児と過ごす清潔でリラックスできる空間が必要であり、これら2人の居場所をどのように繋げていくかが、この住宅のテーマとなった。

求められた車2台分の駐車スペースと、マシンの大きさによって定義されるトレーニングスペースの必要天井高の差が、彼と彼女の場所を繋ぐ開口になっている。開口によってできる段差は室内の縁側となり、友人が集まった際のベンチとして、あるいは主人が横になってテレビを見る場所として利用される。また、この畳の縁側はリビングと個室の距離を保ち、性格の違うスペースをゆるやかに分節する緩衝帯にもなっている。

雑木林に対峙する壁面はスリット状のフィックス窓が並ぶ。これによって厳冬期の気密性と印象的な採光を両立するだけではなく、限られた幾つかの開口から森を眺めることで一本一本の木それぞれと深い関係を持つことができるのではないかと考えた。自分が建物内のどこに居るかによってスリットから見える木が選択される。赤い実のなる木、美しい葉形を持つ木…それらの木が、森の中のどこに位置するかに影響を受け『それを見る場所』が建物内部に生まれる。ベランダの水面に反射する光や、写りこむ木々は室内外の関係にさらなる複雑さを与え、空間の鮮度を保つ。また、夏季にはこの水盤に面した換気窓を開けることにより冷涼な風が室内を通り抜け、冷房エネルギーの消費を抑える。

撮影:酒井広司  Photo: Koji Sakai